「潮騒 − 三島由紀夫」
2006年11月24日 時の芸術鑑賞(Skate)文明から孤絶した、海青い南の小島。
磯の香りと明るい太陽の下で、若くたくましい漁夫と、美しい乙女が奏でる恋の牧歌。
人と自然の神秘的な美との完全な一致に対する憧憬が、
著者を新たな冒険へと駆りたて、端整な美しさに輝く名作が生まれた。
私、今年は十冊の本を読みました。
その内、六冊は文豪といわれる昭和以前の作家たちが書いたものです。
以下がそのリストです。
川端康成「雪国」 芥川龍之介「羅生門」 太宰治「斜陽」
夏目漱石「それから」 三島由紀夫「仮面の告白」、 「潮騒」
中には難しくて息切れしながら読んだものもありましたが、
中でも最も分かりやすく、最も感銘を受けたのがこの「潮騒」でした。
テーマは私の大嫌いな言葉ですが・・・「純愛」です。
しかしこの作品は「純粋」という一見美しく澄んだものの中にある、
モロさ、冷たさ、残酷さというものを余さず見事に描き抜いています。
「純粋」というものは、暗く淀んだ「汚れ」を知っている人間にしか描けない。
そう感じさせてくれたのは、さすが三島由紀夫です。
ところで、この作品を他の三島作品を知っている人が読むと必ず驚くという話を聞きます。
理由は三島由紀夫という作家はとことん曲がった「愛」を描く人だからでしょう。
ではなぜこの幼げな物語をデビュー作でもない作家人生の中間に持ってきたのか。
私の勝手な推測だと、彼は少しだけこう考えていたのではないかと思うのです。
「こんな変な話ばかり書いてる俺が、普通の小説を書いたらみんな驚くだろう」
だとすれば、ありふれた物語しか書けず必死に趣向をこらす作家たちを嘲笑う、
日本史上唯一最高の「逆パターン小説」という事になりますね。
―――――お気に入りの1カット(編集有)
※初江(ヒロイン)との恋を実らせる新治(主人公)への片想いをあきらめた千代子(友人)が
最後の別れを告げるべく早朝の忙しい港へ一人でやって来るシーン
新治が一秒でも永く居てくれるよう祈り、彼女は目を瞑った。
すると彼の許しを願う気持ちが、実は彼のやさしさに触れたいという希望の、仮面を被ったものである事がわかった。
千代子は何を許されたいと願っていただろう。
自分を醜いと信じているこの少女は、とっさにいつも抑えつけていた
いちばん心の底からの質問を、思いがけず口走った。
「新治さん・・・あたし、そんなに醜い?」
この唐突な質問に対する答えがまた面白いんですよ、ぜひ暇があれば読んでみて下さい。
他のものはまた後日紹介できれば良いです。
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