「君を愛したいのに、愛する気持ちが消えてゆく・・・」

 
 頭部を銃撃され、世界初の脳移植手術を受ける事になった青年・成瀬純一。
 退院し、以前の平凡な暮らしを取り戻していく彼を、徐々に異常な変化が襲い始める。
 思想の変容、自我の崩壊、衝動が生む凶行、恋人への愛の喪失。
 そしてついにドナーの正体を突き止めた純一は、恐ろしい真実に直面する。
 
 

読み終えた後、この小説のことが1週間くらい頭を離れませんでした。
もう次の小説に取り掛かっているのにまた読み返してしまったり、夢にまで見たり。
これが久々に味わった「感動」だったと思います。
ミステリー界の重鎮・東野圭吾の16年前の作品ですが、
読者心理に先回りするような展開と、人間心理をえぐり出すような描写が魅力です。
理系出身という事でやや語彙の巧みさを欠く印象もありますが、その分読みやすくて、
普段あまり読書しない方をも、あっさりと文学界に引き込む力を持っていると思います。
 
そしてこの『変身』ですが、
「脳医学」という理系分野にテーマを置きつつも内容は全く難しいものではなく、
本質は「人間の生き様」に焦点を当てて描かれたミステリードラマです。
主人公の純一が豹変していくさまは終盤に差し掛かるほど速度を増し、
その転落をどうにか食い止めようとする恋人・恵の尽力が最も心に残りました。
これ以上詳細は記述できませんが、心に残る場面を一つだけ記載しておきます。
凶暴さを増す主人公・成瀬純一の元を、心優しき恋人・恵が去るシーンです。
 
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次の日、俺は恵を駅まで見送りに行った。
ホームで二人並んだ時、俺は成瀬純一であれば
当然言うであろう言葉を掛けるべきかどうか迷っていた。
「行かないでくれ」といえば、彼女は安心するだろうか。
しかし彼女を自分の元に引きとめて、一体どういう未来を描けばいいというのだ。
恵は電車に乗り込み、こちらを向いた、今までに見た事もないほど悲しい表情だった。

 

他にも「宿命」「同級生」という東野作品を読みましたがどれも純粋に楽しめるものでした。
しばらく彼の作品を一気に読み進めていくことになりそうです。

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