ニ,「孤葉」
木々の葉々が全て散り去り、夙川のほとりは一面の落ち葉に覆われる。
セミの死骸と落ち葉の残骸が映す「この世の終わり」を踏み締めながら、
ただ終わる日々への虚しさを部屋へと続くこの砂道の上で噛み締める。
乾いた落ち葉の絨毯は呼び鈴と変わらぬ役目を果たす。
人が来ればその砕ける音ですぐに分かるのだ。
そう、今日は瞳が来る日だ。
私の部屋は別段狭いわけではないが、
なぜか私以外の人間を拒絶しているようだとよく言われる。
汚れた絨毯、テレビの向き、迫り来らんと立ち並ぶ家具と壁。
大きな座椅子を提供しているにも関わらず「帰れと言われている気がする」らしい。
瞳とは三ヶ月前に知り合い、その後すぐに私は東京に行くことが決まっていた。
彼女は「寂しくなるね」と一度言ったきり、二人の間では話題にすら上らなくなった。
彼女の優しさがそうさせたのか、この冷たい部屋がそうさせたのか、
ただ言っても無駄だと思われたか、もしくはその全てか。
この季節が終わる頃には僕らの恋も終わるだろう。
落ち葉と共に雨に流され川の何処かへ消えてゆく。
後には何も残らない。
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