三,「孤情」
例年ほど、刺すような冷気は感じない。
徐々に冬の誇る鋭さが和らいでいる事に気づく。
冬が力を弱め、夏が力を強め、この夙川も最後は熱だけになってしまうのだろうか。
上流から吹きつける風を凌ぎ、誕生日を迎えた理花の元へと向かう。
贈り物をした時に理花が見せる平然な態度はいつも私の心に衝撃を与える。
もちろん彼女は心から感激した笑顔を見せるが、
それが完璧な演技である事を私は高校時代からの付き合いで知っている。
一年前、彼女と暮らしていた時もそうだった。
週末になるといつも大勢の男たちが飲み会に出る理花を出迎えに来たが、
彼女はそれが特別な事と知っていても、恵まれた事だとは思っていなかった。
理花の美しさは、いつかの優しかった彼女を何処かへ消し去ってしまった。
東京に行くという事は、私にとって理花の元を離れるという意味合いが強い。
私が去れば、彼女が本当は孤独である事を知る者は誰もいなくなってしまう。
だが同時にそれは、彼女の孤独が放つ呪縛から私がようやく逃れる事でもある。
そしてそれは、いつしか彼女が優しさを取り戻す日を、私があきらめる時なのだ。
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