<イーストロード14>
2008年4月30日 時の小説(旧)「イースト・スイサイド(後)」
彼は私をいじめようとした唯一の人間である。
何事においても中心に立たなくては気がすまない男だった。
その彼の王政に唯一従おうとしなかった私が気に食わなかったのだろう。
私を屈させようと、彼は機会を見ては何度も挑んできた。
だがある時、私は彼の思わぬ一面を知る。
それは中学最後の運動会、八百メートル走が始まる直前だった。
優勝を狙う私は同じ長距離部のライバルの動向に目を光らせていたが、
なぜか専門外の距離に出てしまった彼は、
まるで獣の縄張りに迷い込んだ兎のごとく脅えていた。
そして、普段私に対するものとは裏腹の口調でせめてもの慰めを乞いてきた。
それは、これまで負けた事のない男が見せる、負ける事への恐怖そのもの。
彼の中枢をなす心は、彼を覆っていた虚勢という名の装備が強すぎたゆえに、
一切の成長を為していなかったのだ。
彼が自殺した後に残ったものは、
膨れ上がった借金と、高校時代に授かった子と妻だけだったという。
そして、彼が死んで分かった事は、恐ろしい事にただ一つだけだ。
それは、死とは死に様によってはまるで尊いものにもならず、
同情すら得られぬまま死者が「永遠の敗者」として心に刻まれてしまう事だ。
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