「イースト・アイズ(前)」
 

瞳とは大学時代、同じ夙川のアルバイトを通じて知り合った。
一年後に結婚を控えた幼稚園教師として彼女は職場に来た。
私より二歳年上だったが、職場では私の方が二年先輩だった。
聞けば結婚式の規模を少しでも大きくしたいと思いこの職場に来たのだという。
一度、研修中に彼女の婚約者が現れた事もあった。
長身で好感の持てる男性で、穏やかな彼女とも合う波長を持っていた。
 
その後、私達は同僚として色々な話をしたが、
私が彼女に持った印象はただ「普通」でしかなかった。
程々に綺麗で程々の結婚をして程々の幸福を夢見ている。
それこそを最大の幸福と呼ぶ人は多いが、その「普通」こそが私にはくせものだった。
これまで一度も真っ当な路線に乗り上げた事のなかった私からすると、
それは遥かに見下してきたものであり、密かに羨むものでもあった。
 
彼女の婚約が壊れたのはそれから一ヶ月後の事である。

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