「イースト・ソング」
 

不動産屋ほど侮れない相手はいない。
彼らは嘘を言わないが、本当の事も言わない。
美穂と部屋探しに出たが、彼女の要望に従って特に愛着のない街に来てしまった。
コンビニが遠い、子供がうるさい、など次々に不動産屋に苦情をぶつける美穂を見て、
彼女は自分にとって都合の良い物件を探しているのだと気づく。
 
物件巡りを終えて駅に向かう途中、商店街に差し掛かる。
所狭しと立ち並ぶ古い商店に、我先にと行き交う人々。
「便利じゃないの」と美穂は喜んだが、日々ここを通ると思うと急に息苦しくなった。
部屋に帰って地図を見ると、今日探した町の奥に多摩川という川が流れている事を知る。
昔、同じタイトルの歌をどこかの部屋で聞いた事を思い出す。
そう、私を夙川に呼び寄せたあの傲慢な女の部屋でだ。
 
今日探した全ての物件をキャンセルして、翌日、川のほとりの物件で即決した。
心のどこかで夙川に次ぐ川を求めていたのかもしれない。
美穂は心底あきれていた。

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