「イースト・ラン」
 

また川のほとりを走る。
陽が沈み、暗くなってからの方がスピードが出る事に気づく。
横を流れる緑色の川が見えないからか、自分の心と正面から向き合える気がした。
 
走る事はいつも私を無心にしてくれるが、それでもぼんやりと思い出す勲章が一つある。
それは中学最後の運動会、八百メートル走で優勝した事だ。
あの死んだ男と最後に会話を交わした、燃えつくような日の記憶である。
その勝利はいつも私の心の中で金字塔として光を放ってきたが、
時々ふとそれが良かったのか悪かったのか分からなくなる時がある。
もしあのとき負けていれば、それを糧に私はその後もっと強くなったかもしれない。
 
この汚れた川の横を走るのも今日で最後となる。
明日からは引っ越しに備え、荷造りを始めねばならない。
このゴミ箱のような街を抜け出す日がついに来たというのに、
それが自らの力によるものでない事だけがただ虚しかった。

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