「夙川の秋」
2012年4月2日 時の小説・2012~ニ,「孤眼」
木々の葉々が全て散り去り、夙川のほとりは一面の落ち葉に覆われる。
セミの死骸と落ち葉の残骸が示す「この世の終わり」を踏み締めながら、
ただ終わるだけの日々への虚しさをこの川沿いの道で噛み締める。
乾いた落ち葉のじゅうたんは呼び鈴と何ら変わらぬ役目を果たす。
人が来ればその砕ける音ですぐに分かるのだ。
今日は瞳が来る日だ。
私の部屋は別段狭いわけではないが、
なぜか私以外の人間を拒絶しているようだとよく言われる。
汚れた絨毯、テレビの向き、迫り来らんと立ち並ぶ家具と壁。
大きな座椅子を提供しているにも関わらず「帰れと言われている気がする」らしい。
瞳とは半年前に知り合い、その後すぐに私は東京に行くことが決まっていた。
彼女は「寂しくなるね」と一度言ったきり、
二人の間ではこの事は話題にすら上らなくなった。
彼女の優しさがそうさせたのか、この冷たい部屋がそうさせたのか、
ただ言っても無駄だと思われただけか。
この季節が終わる頃には僕らの恋も終わるだろう。
落ち葉と共に雨に流され川の何処かへ消えてゆく。
後には何も残らない。
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