「イースト・ゴースト」

真隣に建つアパートを訪れる。
四方をマンションに囲まれ、太陽からも孤絶された古いアパートである。
誰かに会いに来たわけではない、ただそこで何かを見たのだ。
今は誰もいない荒れ果てた和室の中で、確かに私は誰かを見た。

狭く暗い廊下を渡り、一番奥の部屋へと向かう。
窓から覗く和室の中は、ふすまは破れ、畳は黒ずみ、一向に人を迎える気配がない。
だが時に、こういう和室の中からは人の気配とも思える歴史を感じる事がある。
新たな入居者を待つ美しいマンションには決してない、人々が生きた歴史を感じるのだ。

その時、分かった、私がこの部屋に見た誰かは私自身だと。
まだ小学校に入って間もない頃、建てられたばかりの自宅から逃れるように、
古いアパートに住む友人の元を訪れ、日が沈むまで帰ろうとしなかった自分自身だと。
陰り切った部屋を見て、そこに友人もその家族もいなくなった事を確認した後、
もしあの頃が生涯で一番幸せだったのならと思うと途端に怖くなった。

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