「イーストロード23」
2012年7月18日 時の小説・2012~「イースト・ムーヴ(前)」
引っ越しの荷造りを始める。
過去に三度引っ越しているが、当日までに荷造りを終えた事は一度もない。
どれだけ早く始めても、どう分類して良いのか分からない荷物が必ず最後まで残るのだ。
今日は事情を聞いた美穂が呆れて手伝いに来てくれた。
特にやましい物はないが、なぜか人に自分の所持品を公開するのは落ち着かない。
「来週引っ越したら、次から会うのが楽になるね」と美穂が言う。
自分の願望は意地で押し通す女だが、思えば困った時はいつも助けてくれたように思う。
そう、私が欲しいのはこれだ。
困った時は話を聞いてほしい、傷ついた時はそばにいてほしい。
日頃に愛想を振りまいて、いざという時にそっぽを向く人間とは、
彼らとはもう関わりたくない。
当初は引っ越し先の街を勝手に変えた事に憤慨していた美穂だが、
夕陽の傾いた多摩川に連れて行くと、一転してあの街が気に入ったようだった。
そう、私はこの町を出る、何という思い出もないままに。
多大な虚しさを背負って逃げていく事になるのだろうと、すでに今から予感していた。
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