「イーストロード24」
2012年7月24日 時の小説・2012~「イースト・コール」
冷たい闇の中で目を覚ます。
枕のそばから電話の鳴り響く音が聞こえてくる。
私の眠りはこの音楽によって妨げられたのだろうか。
応答するとすぐに、向こうの者は私の寝起きの声に気づいた。
彼女は私のだらしない生活習慣を理解している数少ない人物である。
理花の声を聞くのはちょうど一年ぶりとなる。
夙川を去る前日に、最後の挨拶に訪れた時以来の会話である。
もう二度と聞く事もないと思っていたが、掛かってくるかもしれないとも思っていた。
彼女には全くと言っていいほど友達がいない。
なかなか切り出そうとしなかったが、声の調子から電話の理由は明らかだった。
入籍を目前に他の女と遊んでいた婚約者に関してである。
両親への挨拶も済ませ、男の家に越す準備をしていた彼女はひどく動揺し、
かつての彼女からは想像もできない「自信がなくなった」という言葉が漏れた。
さすがに私も「自信をなくすなら男選びの方だ」とは言えなかった。
電話を切る寸前、過去に私達が一緒に暮らしていた頃、
彼女が交際していた男の本性を私が暴いた事があった事を思い出し、
消え入るように彼女は言った。
「剛が夙川にいてくれれば・・・こんな事にはならなかったかもしれない」
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