「イースト・ズー」

佐和子と上野動物園に行く。
いつも通り部屋で手短に用を済ませて帰る予定が、
「今日は一日暇」とうっかり漏らしてしまったため、
「じゃあ動物園に行きたい、行こう」と誘われてしまったのだ。
内心帰りたい気持ちでいっぱいだったが、
仕事上、実質上司である彼女の命令を拒否できなかった。

わりと空いていた。
動物園に来るのは小学生の時、祖父母に連れられて来て以来である。
どの動物を見ても、生気がないなと思った。
弱肉強食のルールから解放するという条件で、
ただ人間の観賞用としてオリの中で生きる事を強要された動物達の楽園。

早足で回っているとサルの雌雄が交尾に及んでいるのを見た。
「やだあ、早く行こう」と佐和子が笑って手を引っ張ったが、
そのとき確信した、あの二匹は俺達の姿そのものを映しているのだと。
ただ繁殖のためだけに感情もなく身体を重ねる動物たち。
いや、繁殖どころか単なる快楽のままに関係を続ける俺達は、あのサル以下なのだ。
そのとき、もう終わりにしようと思った。

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