「ウエスト・ロード」

携帯電話の鳴る音が聞こえる。
うるさいなと思って目を覚ますと、机の前に顔を真っ赤にした数学教師が立っている。
「後で職員室に来い」と言われる。
鳴っていたのは自分の携帯電話だった。
浜崎あゆみの歌を単調化したメロディが他の生徒の失笑を誘った。

放課後、テニスコートへ行く。
ラケットを持った高倉がコートから呼んでいる。
職員室に行ったかと聞かれたので、行ったが教師がいないので帰ると言ったら笑われた。
「お前も入れよ、可愛い子多いぞ」とまた誘われる。
クラブに入る気はなかった。
長距離部からの勧誘も受けたが中学時代にもう自分の限界に挑む事にへきえきしていた。

一人の少女がラケットを持って、来る。
高倉の紹介だと三年生の先輩で名を佐藤理花というらしい。
整った顔立ちのわりに眼鏡をかけていて化粧っ気がなく、髪は黒く長かった。
二人で座って少しだけ話をした。
どうやら高倉が相当ちょっかいを出しているらしく、受験生なのに困っていると笑っていた。
その中で私が一番気になったのは彼女の純粋さだった。
綺麗な女生徒によくある、自信のようなものが彼女からは感じられなかった。
まるで、彼女は自分が美しいという事を全く知らないかのように。

「よろしくね、時任くん」
…だが危ない純粋さだなと思った。

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