「冬の虫」

キッチンで虫を見た。
夏によく見かけるアレである、ただ3ミリ程しかなかった。
夏にその俊敏さで人を恐怖に陥れるアレだが、
冬の台所をはうアレの速度は実に遅かった。

特別台所が汚れているわけではなかった。
ただ小松菜の葉が一枚落ちていて、その上をはっていた。
普段通り潰そうとしたが、ふと止まった。

出てきてはならない季節。
それも人ですら早く去りたいほど冷え切っているキッチンで、
ただ苦いだけの小松菜を喰っている。
「それ」を潰してもいいのか。

だが潰した。
考えた末に潰した。
ふいに延命はせずに楽に逝かせてあげようという事になった祖母を思い出した。

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